生成AIに特許明細書やクライアントから預かった資料を入力するとき、まず気になるのがセキュリティです。

「無料版ではなく有料版を使っている」
「入力したデータをAIの学習に使わせない設定にしている」

そこまでしておけば大丈夫だろう、と考える方も多いと思います。

しかし、「学習に使われない」ことと、「入力した情報がどこにも残らない」ことは同じではありません。

「学習に使わない」は重要。しかし、それだけではない

生成AIサービスでは、入力した文章やアップロードしたファイルについて、

AIモデルの学習に利用するかどうか

と、

サービス提供のために一定期間保存するかどうか

は、別の問題です。

例えばOpenAIは、ChatGPT BusinessやEnterprise、APIなどのビジネス向けサービスについて、顧客データをモデルの学習には原則使用しないとしています。一方、APIについては通常のデータ保持期間が設定されており、一定の条件を満たす利用者についてはZero Data Retention(ZDR:ゼロデータ保持)を利用できる仕組みも用意されています。つまり、「学習しない」と「保存しない」は別々に管理されているわけです。[1]

「有料版だから安全」とも限らない

有料であること自体も、安全性を保証するものではありません。

確認すべきなのは「有料か無料か」よりも、自分が実際に使っているサービス、契約、機能について、データがどう扱われるかです。

同じ会社のAIでも、一般利用者向けサービス、法人向けサービス、API、クラウド経由の利用などで条件が異なることがあります。

さらに、検索機能、外部サービスとの連携、ファイル保存などの追加機能を利用すると、通常のAI利用とは異なるデータ処理が行われる場合もあります。

Google Cloudでも、顧客データを許可なくAIモデルの学習やファインチューニングに使用しないことを契約上定めていますが、一部の機能には個別のデータ処理条件があります。[2]

Amazon Bedrockでも、AIへの入力と出力についてデータ保持を制御する仕組みが用意されており、地域や設定によって管理されます。[3]

このように、「どのAI会社を使っているか」だけではなく、「どのサービスを、どの設定で使っているか」まで確認する必要があります。

特許業務では、もう一段慎重に考えたい

特許事務所が扱う情報には、まだ公開されていない発明、クライアントの技術情報、出願方針などが含まれます。

生成AIを業務で利用するのであれば、少なくとも次の点は確認しておきたいところです。

つまり、

「有料版+学習させない設定」

は重要な第一歩ですが、それだけを確認して「これで安全」と判断するのは少し早いということです。

大切なのは「設定」ではなく「データの流れ」を見ること

生成AIのセキュリティを考えるときには、

この情報を入力したあと、どこへ行き、どこに残り、誰が扱える可能性があるのか。

という視点で確認する方が分かりやすいと思います。

そして、サービスの仕様や契約条件は変わります。

特に未公開の発明情報などを扱う場合には、利用しているAIサービスについて、その時点の最新の契約条件やデータ取扱条件を確認することが重要です。

最近よく耳にする「ZDR(Zero Data Retention)」も、この問題を考えるうえで重要な言葉です。

ZDRとは何なのか。
「学習されない」のと何が違うのか。

これは次回、もう少し詳しく取り上げます。

参考情報

  1. OpenAI:Business data privacy, security, and compliance
  2. Google Cloud:Service Specific Terms
  3. AWS:Amazon Bedrock - Data retention