米国特許では、クレームの範囲が不明確な場合、35 U.S.C. §112(b)により拒絶または無効となることがあります。
このIndefiniteness(不明確性)の基準について重要な判断を示したのが、2014年の米国最高裁判決 Nautilus, Inc. v. Biosig Instruments, Inc. です。
何が争われたのか?
問題となった特許は、運動中の心拍数を測定する装置に関するものでした。
クレームには、二つの電極が「in spaced relationship with each other(互いに間隔をあけた関係)」に配置されるという表現がありました。
その「間隔」がどの程度なのか明確でないとして、クレームが不明確ではないかが争われました。
「解釈できればよい」では不十分
Federal Circuitは従来、クレームが「insolubly ambiguous(解決不能なほど曖昧)」でなければ、不明確とはしないという比較的緩やかな基準を用いていました。
最高裁は、この基準では不十分だとしました。
そして、
明細書と審査経過を踏まえてクレームを読んだときに、当業者が発明の範囲を“reasonable certainty(合理的な確実性)”をもって理解できなければならない
という基準を示しました。
完全な正確さまでは要求されない
もっとも、最高裁はクレームに「absolute precision(絶対的な正確さ)」を要求したわけではありません。
技術や言葉には一定の幅があるため、完全な精密さは不可能です。
重要なのは、第三者がクレームを読んだときに、どこまでが特許の範囲なのかを合理的に判断できることです。
審査段階では少し見方が違う
注意したいのは、Nautilusが主として発行済み特許の有効性について示した基準であることです。
USPTOの審査では、クレームにBroadest Reasonable Interpretation(最も広い合理的解釈)を適用し、その結果、複数の合理的な解釈が生じて権利範囲が明確でなければ、§112(b)による拒絶が適切となる場合があります。
米国出願で何に注意するか?
例えば、
「approximately(約)」
「substantially(実質的に)」
「near(近く)」
などの相対的な表現を使っただけで、直ちに不明確になるわけではありません。
しかし、その意味や判断基準を当業者が明細書から理解できるようにしておくことが重要です。
クレームを広くすることと、クレームの境界を曖昧にすることは別問題です。
Nautilus判決は、この違いを理解するうえで重要な判例です。