米国特許の実務で、非自明性(Obviousness)、日本でいう進歩性に近い判断を理解するうえで欠かせない判例が、KSR International Co. v. Teleflex Inc.です。
米国最高裁判所は2007年、この事件について全員一致の判決を出しました。
どのような事件だったのか?
問題となったのは、自動車のアクセルペダルに関する特許です。
既に知られていた調整可能なペダルと、電子式のセンサーを組み合わせた発明について、その組合せが特許を受けるほど非自明なものかが争われました。
Federal Circuitは当時、先行技術を組み合わせるための「Teaching(教示)」「Suggestion(示唆)」「Motivation(動機)」を重視する、いわゆるTSMテストを用いていました。
最高裁は「硬直的すぎる」と判断した
最高裁は、TSMという考え方そのものを否定したわけではありません。
問題としたのは、それを硬直的なルールとして適用することでした。
当業者は、先行文献に明示的な「組み合わせなさい」という記載がなくても、技術常識、設計上の必要性、市場からの要求などを考えて、既知の技術を組み合わせることがあります。
そのため、非自明性の判断では、より柔軟に当業者の技術常識やCommon Sense(常識)を考慮すべきだとしました。
「Obvious to Try」も重要になった
KSR判決でもう一つ重要なのが、Obvious to Try(試してみることが自明)という考え方です。
解決すべき課題があり、選択肢が限られていて、その結果もある程度予測できる場合には、その選択肢を試すこと自体が当業者にとって自然であり、発明が自明と判断されることがあります。
また、既知の要素を既知の方法で組み合わせ、予測可能な結果しか得られない場合にも、自明と判断されやすくなりました。
ただし「何でも組み合わせればよい」わけではない
KSR判決は、審査官が後知恵で自由に先行技術を組み合わせてよいとしたものではありません。
USPTOの現在のMPEPでも、§103の拒絶には、
なぜ当業者がその先行技術を組み合わせたと考えられるのか
について、合理的な根拠を示すことが求められています。
単に「組み合わせることができる」というだけでは十分ではありません。
米国OA対応でなぜ重要なのか?
米国のOffice Actionで§103による拒絶を受けた場合、KSRは現在でも基本となる判例です。
したがって反論するときも、
「文献に組み合わせの記載がない」
というだけでは弱い場合があります。
それよりも、
なぜ当業者がその組合せをしないのか、組み合わせるとどのような問題が生じるのか、結果が本当に予測可能だったのか
を具体的に検討することが重要です。
KSR判決は、米国の非自明性判断を理解するための出発点となる判例の一つです。