米国特許では、明細書は、当業者がクレームされた発明を作り、使用できるように記載されていなければなりません。

これが35 U.S.C. §112(a)の Enablement(実施可能要件) です。

この要件について近年重要な判断を示したのが、2023年の米国最高裁判決 Amgen Inc. v. Sanofi です。

何が争われたのか?

Amgenの特許は、PCSK9というタンパク質に結合し、その働きを阻害する抗体に関するものでした。

クレームは、特定の抗体だけではなく、一定の機能を持つ抗体を広く対象としていました。

問題は、その広い範囲の抗体について、明細書が十分に作り方・使い方を教えていたかという点でした。

最高裁は「クレーム全体」を実施可能にする必要があるとした

最高裁は、AmgenのクレームについてEnablementが不十分であると判断しました。

重要なのは、

広いクラス全体をクレームするのであれば、当業者がそのクレーム範囲全体を、過度な試行錯誤なしに実施できるようにしなければならない

という点です。

いくつかの実施例を示しただけで、その何倍、何千倍もの範囲を当然に独占できるわけではありません。

すべての実施形態を書く必要はない

もっとも、最高裁は、クレームに含まれるすべての実施形態を一つずつ明細書に記載しなければならない、としたわけではありません。

共通する原理や一般的なルールを示すことで、当業者がクレーム全体を合理的に実施できる場合には、それで足りることがあります。

問題は、明細書を読んだ当業者が、残りの範囲を実施するために大量の試行錯誤をしなければならない場合です。

「機能」で広く取るクレームでは特に注意

Amgen判決はバイオ分野の事件ですが、その考え方は特定の技術分野だけに限定されません。

USPTOも2024年の指針で、技術分野を問わず従来のWands factorsを使って、クレーム全体を実施するための実験が合理的な範囲かどうかを判断するとしています。

したがって、

「ある機能を実現するものすべて」

のように機能的な表現で広いクレームを作る場合には、その広さを明細書が本当に支えているかを慎重に検討する必要があります。

米国出願で重要なこと

Amgen判決が示す実務上のポイントは単純です。

クレームを広くしたいのであれば、明細書の開示もその広さに見合っていなければならない。

広いクレームを作ることと、その広い権利範囲をEnablementによって支えることは、セットで考える必要があります。

Amgen v. Sanofiは、米国で広いクレームを作成するときに、明細書の開示範囲をどこまで用意すべきかを考えるうえで重要な判例です。